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焼き鳥

老いぬれば朽木の洞に身を投げて命絶つとふ雀かなしも    省三

 終戦のどさくさの最中に小学校に入った私の夢のひとつに<焼き鳥をたらふく食う>ということがあった。
 都会とは幾分事情が異なるが、北国の田舎町の住人である私たちは、年から年中お腹を空かしていて、その頃、町のあちこちに出来初めた一杯飲み屋の賑わいと、そのつまみの焼き鳥は、欠食児童の一人であった私の憧れであった。
 本当かどうかは知らないが、私の周囲の大人たちの話では、その焼き鳥の原料は、お寺や鎮守の杜などの老木に巣篭もっている雀だ、ということであった。また、私の遊び仲間の一人の某君の兄さんが毎日空気銃を持って何処かに出掛けて行くのは、その焼き鳥の原料となる雀を狩るためで、彼は、自分が採って来た雀を飲み屋に卸した稼ぎで、十人近い家族の生活を支えているのだ、という噂もあった。
 年月が経って、あの頃よりはかなり大きくなった私の口にも焼き鳥と名づけられたものが入るようになった。その頃、いっぱしの給料取りとなった兄が、仕事帰りのお土産として、その頃、町のあちこちに目立ち始めた惣菜屋から、経木に包んだ焼き鳥を買い求めて帰宅するようになったからだ。
 でも、なんか違うのだ、今、私が口にしている焼き鳥は、その味も香も、あの頃、私が憧れた<焼き鳥>とは、なんか違うのだ。
 ある日その疑問を、成人に達して、たまには飲み屋にも行くようになっていた兄に率直にぶっつけてみた。
 兄曰く、「それはそうだよ。この頃、町の総菜屋で売っている焼き鳥は、本物の焼き鳥ではないからさ。本物の焼き鳥は雀の肉を焼いたもので、私が総菜屋で買ってくる焼き鳥は、鶏の肉や内臓を焼いたものだから」と。
 今になって思えば、あの時の兄のお話も、本当は真実ではないのだろう。
 雀と言えば、子供の頃に抱いた疑問の一つに、「雀の死に場所は何処だろうか?」というのがあった。
 日中は稲の穂にむれたり、電線に数珠繋ぎになって留まっていたりして、夕暮れになると、お寺の境内や鎮守の杜の老木に帰って来て、ちゅんちゅんじゅくじゅく一晩中鳴き止まず、私の町の人口の何百倍もいるはずの雀たちだが、その亡骸らしいものは絶えて見たことが無かったからだ。
 そこである日、この疑問を父に質してみた。すると父曰く、「雀たちの墓場は、奥山にある老木や朽木に空いている洞の中だ。こんなことを俺がなぜ覚えているかと言うと、俺がまだガキの頃、村の山にそれはそれは大きな橡の木があった。ところが、ある年の秋の台風で、その橡の木が真中から折れてしまい、それまで見えなかった巨大な洞が顔を出したのだ。そこで、俺たち悪ガキどもは、早速家から梯子を持って来て折れた木に登り、その洞を覗いてみた。すると、その洞の中には、雀の死体が何百何千と詰まっていて、獣の腐った匂いをあたり一面に撒き散らしていたのだ」と。
 明治半ば生まれの父は、私たち子供を喜ばせるために、よく現実にはあり得ないようなほら話をすることがあったから、今となっては、この話の真偽も判らない。でも、その頃の私にとって、年老いて餌を採ることも飛ぶことも出来なくなった雀たちが、己の亡骸を巨木の洞の中に隠して、天敵から守ろうとしたことが、とても哀れに思えてならなかったのである。
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