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一首を切り裂く(097:断)

(西中眞二郎)
    晴れ渡る空真っ二つに断ち割って飛行機雲は西へと走る

 先日、初詣の帰りに、久しぶりに「飛行機雲」を見ました。
 その飛行機雲は、晴天の底のずっとずっと手前に浮き下がっているような感じで、なんだか元気無く、 大空を「真っ二つに断ち割っ」た感じではありませんでした。
 その日のお天気具合とか、空気の澄み具合とかによって、一筋の飛行機雲から感じられるイメージもいろいろと異なるものですね。
 その日、私の見た飛行機雲は、短歌に詠めそうな感じではありませんでした。
     〔答〕 ふらふらと空に下がれる飛行機雲もっとしゃきっとしてはくれぬか  鳥羽省三


(梅田啓子)
    そこだけが騒めき断たれゐるごとし落合監督坐るベンチは

 そこの辺りが中日の不人気の理由なんでしょうか?
 かと言って、監督を立浪和義に替えても、中日は勝てないし、不人気な点も同じことでしょう。
 要するに、中日は名古屋限定の永遠なる不人気球団なんですよ。
 いっそのこと、三重や岐阜などの近隣の地方都市と協力して、自由契約必至のおんぼろ選手やプロ球団入りを狙っている若手選手ばかりを集めた地方リーグを作って、中日はその盟主になればいいと思うのですが。
     〔答〕 其処だけで崇めて居てもつまらない立浪和義賞味期限切れ  鳥羽省三
 
 とは書きましたが、実を申すと、私は落合監督の大ファンで、中日というチームそのものも、口で言うほどには嫌っていないのです。
 巨人は勿論のこと、中日以外のセリーグ各球団は、あの広島も含めて全国区的人気を得ようとしているのです。
 そうした中にあって、唯一、中日だけが地域限定の人気上昇を目指しているのは、今後のプロ野球発展のためには、極めて意義のあることです。
 米大リーグの各球団は、あのヤンキースも含めて、地域チームに徹しております。
 名古屋という土地は、人口からしても経済力からしても、中日ひとチームを支えるのに、十分過ぎるものを備えています。
 東京や大阪は複数チームを抱えている。
 札幌、仙台、千葉、広島、福岡は、人口の面でも経済力の面でも、プロ野球球団を抱えるには不足な面がかなりある。
 横浜は、東京とほとんど変わり無い。
 故に、残るのは名古屋だけ。
 あとは中日経営陣の斬新な企画力と、落合監督の一念発起が待たれるのみです。
     〔答〕 監督の落合博満孤高にて選手・コーチが敬遠してる  鳥羽省三


(羽うさぎ)
    ためらいも憂いも愛も伏せたままメールは縁を一撃で断つ

 ケータイという、先端機器が本質的に備えている、非情さに着目している。
 冒頭を「ためらいも」としたのが大変良かった。
     〔答〕 プッシュ一閃、愛憎を断つケータイのメールに敵う通信は無し  鳥羽省三


(野州)
    堅茹での男はいつも濡れてゆく差しかけられた傘を断る

 もう半世紀近くも前の話です。
 その頃、学生であった私は、ダブルスクールとして、東中野の日本文学学校にも通っていた。
 梅雨酣の頃、授業を終えて帰宅を急いでいた午後九時過ぎに、突然雨が降って来た。
 あまりに急なことなので、傘も差さずに歩いていた私に、後ろから走って来た何方かが傘を差し掛けてくれたのである。
 見ると、その人は同じ日本文学学校の学生で、頭もなかなか切れそうで、メガネを掛けてはいるが容貌も申し分が無くて、私が普段から、「こんな女性とお付き合いが出来たなら、私の貧しい青春にも薔薇の花が咲いたようになるのに」と思っていた女性なのだ。
 思いもしなかった幸運に、私はすっかり舞い上がってしまい、有り難うの一言も言えずに、無言のままの相合傘で駅までの道をうきうきしながら歩いた。
 そして、あろうことか、東中野の駅に着くや否や、その女性にひとことの言葉も掛けずに、改札口への階段をつかつかと駆け上がって行ったのだ。
 改札をくぐった瞬間、私は「しまった」と思ったが、それからでは取り返しのつくことでは無かった
 さだまさしの歌『主人公』の一節に、「<或いは><もしも>だなんてあなたは嫌ったけど/ 時を遡る切符があれば/欲しくなる時がある/あそこの別れ道で選びなおせるならって」と言うのが在る。
 私にとっての「あそこの別れ道」とは、あの東中野駅の、改札口への上り階段のことなのかも知れない。
 その後、良き伴侶を得て、二児の父、二児の祖父となった私ではあるが、時折り、「あそこの別れ道で選びなおせるならって」思わないわけでも無い。
 さだまさしの『主人公』の歌詞は、その後、「勿論/今の私を悲しむつもりはない/確かに自分で/選んだ以上精一杯生きる/そうでなきゃ/ あなたにとても/とても/はずかしいから」と続く。
 誤解の無いように、この際、申し述べて置くが、「そうでなきゃ/あなたにとても/とても/はずかしいから」と、私が思う時の「あなた」とは、東中野駅の階段下に放置して来てしまった、あの女性のことでは無く、私の愛妻のことである。
 と、ここまで書いてきたが、私は突然、腹が立って来た。
 その理由は、本作中の「堅茹での男」とは、私のことでは無いか、と思ったからだ。
 本作の作者の野州氏よ、あなたはCIAか何かに依頼して、私の事績を克明に調査したのではありませんか?
 だとすれば、あなたは卑怯者だ。
 一体全体、私は貴方に何をしたと言うのだ。
 ただ、貴方のあまり上手くもない歌を、一所懸命にに誉めただけではないか。
 それなのに、貴方はこんなに卑怯なことをする。
 こうなったら、出る所に出て、一挙に始末をつけましょう。
     〔答〕 とかなんとかおっしゃってとどのつまりの時間稼ぎをしちゃった私  鳥羽省三


(emi)
    週末はひたすらスープを煮込みます沈めた言葉の断片溶いて

 「週末はひたすらスープを煮込みます」という上の句には、それほどの疑問点もない。
 もし、あるとすれば、それは,副詞「ひたすら」に関することであり、本作の話者は何故、スープを煮込むことなどに、「ひたすら」打ち込んでいるのか、ということぐらいである。
 だが、その答は、上の句を「ひたすら」凝視しているぐらいでは得られない。
 その答を得るためには、下の句を見なければならないし、下の句の中でも、特に「沈めた言葉」を凝視し、その意味を真剣に考えなけれならないのである。
 しからば、「沈めた言葉」とは何か?
 言葉を沈めるとは、どうすることか?
 私見ではあるが、言葉を沈めるとは、言いたい言葉を言わないままで済ませることである。
 私の連れ合いの言い分では無いが、言いたい言葉を言わないままで済ませると、ストレスがたまる。
 その、たまったストレスを解消するために、本作の話者はスープを煮込むことに「ひたすら」熱中するのである。
 スープを煮込むことに限らず、何かに熱中することは、ストレス解消の為に役立つ。
 かくして、当初はいとも容易く解答が得られると思っていた、上の句の叙述から感じられた疑問点は、実は、下の句の叙述と密接な関わりがあるのであって、下の句の叙述に関わる疑問点が解けると、上の句の叙述に関わる疑問点も、自然と氷解してしまうのであった。
 本作を一定のレベルに到達した作品として評価するためには、そうした、下の句と上の句との密接な関わりに気付かなければならない。
     〔答〕 平日は言いたいことも言わないでストレスばかり溜めて居ります  鳥羽省三 



(岡本雅哉)
    断れない理由がふいに浮かんでは断る理由をかき消していく

 事は単純明解。
 この作品の話者にとっては、「断る理由」よりも「断れない理由」の方か重要なのだ。
 つまりは、断ることが出来ないのだ。
     〔答〕 最初から断る気などないのなら断るそぶりを見せちゃいけない  鳥羽省三


(村本希理子)
    ぱつつんと断つタイミング計りをり タテイタにミズのセールストーク

 本作の話者は暇人。
 持て余している暇の解消策として、サプリメントを売りつけに来たセールスマンのトークを、買うはずも無いのに、さも買いたそうにして聴いていたに違いない。
 だが、その目的は十分に達成された。
 今こそ、「ぱつつん」と音立てて、「タテイタにミズのセールストーク」を遮断しなければならないのだ。
 だが、「断つタイミング」を「計りをり」などと言うのは、「断つ」ことが出来な時にいう口実なのだ。
 かくして、歌人・村本希理子さんは、あのサブリメント<香潤>を一年分も買わせられる結果となった。 
     〔答〕 立て板に流れる水は断たれない断とうとすれば溢れ出るだけ  鳥羽省三  
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ありがとうございます

全首鑑賞お疲れ様でした。
取り上げてくださってありがとうございました。
初めて褒めていただいて嬉しいです。
今年は羽うさぎ改め高松紗都子の名前で参加する予定です。
題詠blogも2回目になるので、もっと丁寧に詠みたいと思っています。
これからもよろしくお願いします。
プロフィール

鳥羽省三

Author:鳥羽省三
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