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一首を切り裂く(092:夕焼け)

(村本希理子)
    つぎつぎと発火する窓 夕焼けの空を巨きな船底がゆく

 上の句の「つぎつぎと発火する窓」とは、西日を受けて輝くマンションなどの窓を指しているのだとは思うのですが、「夕焼けの空を巨きな船底がゆく」の意味が、今ひとつ分かりません。
 「夕焼けの空を」ゆく「大きな船底」とは、或いは、夕焼け空を流れて行く大きな雲を指すのであって、それを「巨きな船」としないで、敢えて「巨きな船底」としたところに、本作の作者の工夫が見られるのであって、それは修辞学的な解明の対象にされるよりは、精神分析学的な解明の対象にされる方が、より相応しいのではないでしょうか。
 作者・村本希理子さんの浪漫的、瞑想的な姿勢が覗われて、大変魅力的な一首に仕上がっております。
     〔答〕 雷鳴はごろごろごろと転がりて友情たちを壊してしまう  鳥羽省三 

   
(佐藤羽美)
    遠慮なく夕焼けは来て僅少の文芸部誌を溶かしてしまう

 「遠慮なく」にやや違和感を覚えます。
 舞台となっているのは某高校の文芸部室。
 わずか三人しか居ない文芸部員の懸命の努力に、理解ある顧問教諭の協力なども手伝って、PTA予算から印刷費用の半額を補助させるという確約も取れたので、毎年一回発行の文芸部誌の刊行にこぎつけることが出来た。
 そして、その後、女生徒だけ三人の部員の更なる奮闘の甲斐あって、刊行時、三百部もあった文芸部誌も残りあとわずか数冊となった。
 その、残り数冊となってしまった部誌を囲んでの三人の部員の談話は、いつまで経っても尽きようとしない。
 そんな三人の気持ちを余所に、今日の日の「夕焼け」は「遠慮なく」やって来て、三人が囲んだ机の上に置かれた 「僅少の文芸部誌を溶かしてしまう」ような感じで、容赦なく輝く。
 何時まで話しても名残は尽きないが、さあ、夕方だ。
 そろそろ最終下校の時刻だ。
 残り三冊となってしまった、三人の部員の汗と涙の結晶の文芸部誌は、それぞれ一冊ずつ自宅に持って帰り、三人の友情の証とし、今日の日の永遠なる記念品としよう。 
     〔答〕 遮断機は遠慮会釈も無く閉まり少女のままに残れる三人  鳥羽省三 


(流水)
    夕焼けの踏切待ちで二人して轢かれ続ける影を見ていた

 「夕焼けの踏切待ちで二人して」「見ていた」「轢かれ続ける影」は、一体誰の「影」なのでしょう。
 その「影」とは、他でもなく、彼と彼女の二人の影なのだ。
 轢かれる前から既に傷んでいた二人の影は、かくして永遠に轢かれ続け、彼と彼女は、永遠に轢かれ続ける自身の影を、永遠に開かない「夕焼けの踏切」に立って、永遠に見つめ続けて行くしかないのだ。
     〔答〕 踏み切りの向こう側には何も無い二人は夢も希望も持たない  鳥羽省三
 

(八朔)
    我が裡に色づくものの衰えてふいに冷えたり夕焼けの空

 「我が裡に色づくものの衰えて」とは、身につまされる。
 ところで、「我が裡に色づくもの」とは何なんでしょうか?
 最も難しい言葉で言えば、「もののあはれ」。
 少し難しい言葉で言えば、「風情を愛する心」。
 最も易しい言葉で言えば、「助平根性」。
     〔答〕 我が家に色づくもののありとせば それは小判だ山吹色の  鳥羽省三


(梅田啓子)
    静脈の浮く手に黒き日傘さし夕焼けのなか橋わたりゆく

 道具立てを揃え過ぎてはいませんか?
 「静脈の浮く手」「黒き日傘」「夕焼け」「橋」、主役級の言葉が目白押しで、おのおの自己主張していて、なかなか纏まりがつきません。
 そして、「静脈の浮く手に→黒き日傘さし」という連文節と、「夕焼けのなか」という連文節とが、互いに対立しながらも同時に、「橋わたりゆく」という連文節に係って行くのだが、これでは、「橋」に懸かる重量が余りに重くて、「橋」が崩落してしまいます。
 この一首の基本構造は、要するに、この作品の<話者>が「橋」を「わたりゆく」と言うだけのことです。
 でも、それだけではもの足りないから、話者が橋を渡って行く背景として「夕焼け」を添えた。
 でも、それでももの足りないから、「夕焼けのなか橋わたりゆく」話者に「黒き日傘」を差させた。
 でも作者は、もっともっと欲張りだから、「黒き日傘さし夕焼けのなか橋わたりゆく」話者の手を、「静脈の浮く手」にしてしまった。
 短歌には<五七五七七・五句・三十一音>という長さの制限が在るから、いくら欲張りの作者でも、これ以上付け加えることは出来ませんが、もし、付け加えたとしたら、「伝へ来しDNAで肺を病み静脈の浮く手に黒き日傘さし夕焼けのなか橋わたりゆく」となりましょうか?
 ご希望とあらば、もっともっと長くして差し上げても宜しいのですが。
 雰囲気だけの歌は、作者ご自身はともかく、作者以外の鑑賞者には、あまり大きな感動を与えませんよ。
 そして、もう一点。
 底意地の悪い評者の挑発に乗ってはいけませんよ。
 冷静に、冷静に。
     〔答〕 鬱病に苦しむ者が二人して神経衰弱やってもつまらん  鳥羽省三
          

(近藤かすみ)
    熟し柿ほろろほろろとやはらかし二人並んで夕焼けを食む

 歌壇の一部には、擬態語や擬声語の、実験的、効果的使用に、積極的に取り組んでいる歌人たちがいらっしゃるが、
未だその成果が十分に上がっているとは言えません。
 本作の「ほろろほろろと」などは、まずまず成功した事例として讃えられましょうか?
     〔答〕 栗の実のばさらざさらと落つるとき伊賀か甲賀かとばかり思ふ  鳥羽省三


(中村成志)
    夕焼けにおびえたようなまなざしの君を見捨てて橋を渡った
 
 ムンクでしょうが、でも、イマイチですね。
 橋は出会いの場所でもあるが、別れの場所でもあるのでありましょうか。
 「君の名は」世代に少し不足している私としては、数寄屋橋の下を川が流れていたことまでは知りませんが。
     〔答〕 夕焼けに脅えて叫ぶ女居て<エドヴァルド・ムンク>のモデルとなりき  鳥羽省三


(nnote)
    謝ってしまいたかった夕焼けに缶コーヒーは冷えてゆくだけ

 「謝ってしまいたかった夕焼けに」謝らないままで居たが、その宙ぶらりんの時間の中で、復縁の仲立ちとなるはずだった「缶コーヒーは」「冷えてゆくだけ」であった、というだけのことであろう。
 <二人の仲が冷えて行く>と言わずに、そのことを表わしたのが手柄か?
     〔答〕 謝ってもらいたかった朝食時 夫は食べずに会社に行った  鳥羽省三
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撰歌ありがとうございます。

この歌は何回も作り直してやっと出来た歌です。

昔の記憶を元に詠いました。

ありがとうございます。
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