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一首を切り裂く(084:河)

(西中眞二郎)
    五月雨や大河を前に家二軒 蕪村もかかる景色を見しや

 いやはや、驚嘆させていただきました。
 西中眞二郎氏にして、この手抜き在り。
 察するに、一題遅れで「憂鬱」をお詠みになったのでしょう。
 私も、前題「憂鬱」の選定をしながら、すっかり憂鬱になってしまい、本題に於ける西中さんと同じような心境になりました。
 「憂鬱」などという大段平を振りかざしたような題では、碌な歌を読めませんよね。
     〔答〕 「極寒の塵もとどめず岩ぶすま」政治家かくも居住まひ正せ  鳥羽省三


(原田 町)
    葛和田とう利根の河岸あり亡き父の故郷へ小舟で渡りし記憶

 作中の「葛和田とう利根の河岸」とは、埼玉県大里郡妻沼町俵瀬から群馬県邑楽郡千代田町赤岩に渡る利根川の渡し場である。
 一般的には、群馬県側の地名に因んで<赤岩の渡し>と言うが、埼玉県側の人々は<葛和田の渡し>または<葛和田の河岸>とも呼んだそうだ。
 その歴史は古く、永禄年間(1560年頃)の上杉軍の渡河に使われたという記録も残っている。
 この渡し場の大規模な施設は、陸上交通の発達に伴って昭和初期に廃止されたが、<渡し>そのものは地域の生活道路として現在もなお細々と運営されているそうだ。
 本作の作者<原田町>さんが、そのご尊父様に連れられて、この「河岸」に立ち寄ったのは何時の頃であったでしょうか?
 より美しかれとの願いを込めて、小野小町に因んで<町>と名付けた我が娘の手を引いたご尊父様にとっては、この渡しは、生活道路というよりも郷土の自慢の観光施設のようなものであって、掌中の玉のような我が娘には、何がなんでも見せて置かなければものであったらしく、わざわざ回り道をして立ち寄ったのかも知れない。
 ところで、この一首は、原田町さん作には珍しく、文語的発想に基づいた作品である。
 レトロ風な作品内容に加えて、初句「葛和田とう」の「とう」が重要な役割りを担っているからである。
 ならば、この句は「葛和田とう」では無く、「葛和田とふ」に正すべきであろう。
 口語短歌が文語短歌に三行半(みくだりはん)を突き付けた時、彼は潔く「とふ」などと言う遺物を打ち捨てるべきであった。
 勇ましいことは遠慮会釈なく言うが、自分にとって都合のいいことはちゃっかり頂戴するのが口語短歌の不徹底かつ節操の無いところである。
 <と言ふ>の省略形である<とふ>を<とう>と改めて、乞食よろしく拝借するよりは、ここはあっさりそれを棄却するべきであった。
 「と言う」或いは、それよりももっと斬新な、引用を指示する語句の誕生を強引に摘み取ってしまった、「とう」の罪業はそれほど軽くは無い。
     〔答〕 葛和田といふ渡し場を過ぎりにき盆の休みに父に手牽かれ  鳥羽省三


(佐藤羽美)
    やわらかな蔓や少女が棲むという河下水希の引く流線に

 作中の「河下水希」とは、イラストレーターから出発し、現在は『週刊少年ジャンプ』(集英社)などを活動の場としている女流人気漫画家である。
 2002年から2005年までの約三年半に亘って連載した『いちご100%』は、彼女の出世作であるそうだ。
 私は、漫画事情についてはまるで不案内なので、これ以上のことは分からないが、「やわらかな蔓や少女が棲むという河下水希の引く流線に」というこの一首に、彼女の描く漫画の手際と魅力とが余すところ無く描かれていると思う。
     〔答〕 あさがすみ河下水希の描くとき山田花子も妖精となる  鳥羽省三 


(五十嵐きよみ)
    サンマルタン運河が窓から見えるならあとはワインがあるだけでいい

 さすが五十嵐さん。
 天の時、地の利、才の力を得て、上手くまとめたものです。
     〔答〕 飲む酒はボルドーの赤 窓に寄りサンマルタンの運河眺めつ  鳥羽省三   


(ほたる)
    泥の河を裸足で渉る窮屈な靴はきちんと岸に揃えて

 宮本輝原作の小説『泥の河』を意識しての発想ではあったが、その理想は脆くも潰え、結局は、夏休み中のガキンコの<泥んこ遊び>のスケッチなのか、水死願望の独身女性のスケッチなのか判らない作品になってしまった。
     〔答〕 濁り水に棲めぬ蛍の命なら泥の河には足踏み込むな  鳥羽省三 


(おっ)
    就職の氷河期が今やってきたマンモス校は凍るしかない

 時節柄、この一首を無視するわけには行かない。
 就職の超氷河期が訪れて凍結してしまうのは、どちらかと言うと、マンモス校よりバクテリア校の方ではないでしょうか。
 マンモス校中のマンモス校である「日本大学は生き残りの見通しが立った」という報道が為される一方、ベビーブーム、進学ブームを当て込んで全国各地に設立された地方大学や短期大学が、軒並み廃校や募集打ち切りの憂き目に晒されているとのことです。
     〔答〕 弱き者小さき者が凍る世ぞ友愛政治凍結するな  鳥羽省三


(bubbles-goto)
    密告に怯えて窓を閉ざせども運河の水が夜更けに匂う

 ここは東京都品川区、北品川橋辺りの麻薬密売某組織のアジトである。
 得体の知れない汚物を浮かべた運河を隔てて斜め向かいのカラオケバーが対立組織のアジトであることは、警視庁当局に潜行している末端組員からの情報によって明らかである。
 麻薬密売業者にとって、本当に恐ろしいのは、麻薬Gメンや警視庁当局では無く、対立組織の密告である。
 そこで、ここ数日、取り引き中は勿論、取り引きをしていない深夜でも、運河に面したこのアジトの窓は閉めっぱなしである。
 兄貴分から寝ずの番を任されている、青森生まれの<ヤッパの政>にとって、東京の夏の夜は暑苦しく、運河を渡って来る風が恋しい。
 しかし、運河に面した窓の一枚でも開けようものなら、明日の朝を待たずに対立組織からの密告を受けた麻薬Gたちに踏み込まれるのは必至。
 夜の深まりと共に、ああ、この密室に運河の水の匂いが漂って来た。
 その匂いは、水の匂いと言うよりもドブの匂いと言った方が正しく、<ヤッパの政>の故郷を流れる奥入瀬川の清流の匂いとは明らかに異なる。
     〔答〕 束の間の浮き寝の覚めぬ暁にGメン踏み込みアジトは壊滅  鳥羽省三
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はい!

濁り水には棲めそうにないので危険地帯には足を踏み入れないように注意します!!

一応、まだ死にたくはないのでそういった願望はありませんが・・・^^;
ご指摘、ごもっともです☆

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