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一首を切り裂く(055:式)

(ひいらぎ)
    緊張を隠して向かう入社式スーツは上手く着こなせぬまま

 「着る」と「着こなす」とはかなり異なる。
 「着こなす」に限らず、一般的に言って「~こなす」とは、「こなす」を補助動詞として従える動詞の示す動作を十分以上に為すことであるから、「着こなす」とは、例えばスーツならスーツを、完全に征服してしまっていて、彼を己の家来にしてしまっている状態を言うのである。
 それに対して、「着る」というのは、文字通り、ただ「着る」だけのことであるから、着ただけの状態で外出しようものなら、「あなた、上着の襟が立っていますよ。それにボタンを掛け違えていますよ。だいたい、あなたの顔は外出向きには出来ていないんですから。鏡を見なさい、鏡を」などと、連れ合いからたちまち罵倒されてしまうことだろう。
 曲名は失念してしまったが、どなたかの曲の歌詞に、「赤いランドセル背負ってか背負われてか」というのがあるが、本作の動作主は、言わば<赤いランドセルに背負われた>状態で「入社式」に臨もうとしたのである。
 そんなこととは別に、本作には、もう一つの疑問がある。
 それは、作中の動作主と作者との関係が今ひとつ判然としないことである。
 本作には、作中の動作主とは別に、作者とイコールの関係にある人物、即ち「私」が居て、その私が、「彼は、スーツも上手く着こなせぬまま、緊張を隠して入社式に向かう」と言っているのであろうか。
 それとも、彼と私とは同一で、「私は、スーツは上手く着こなせぬままま、緊張を隠して入社式に向かう」と言っているのであろうか。
 その点が、イマイチ明らかではない。
 とは言え、その点は必ずしも本作の欠点ではない。
     〔答〕 わたくしはパジャマの上にフリースを重ね着しつつ買い物に行く  鳥羽省三


(磯野カヅオ)
    正解を疑はぬ子に等式の向こう側ではチロの騒げり

 「正解を疑はぬ子」とは、「自分の書いた答案が正解だ」と信じている児童のことか?
 もしそうならば、その「子」は磯野家のご長男・磯野カツオ君のことでありましょう。
 あの子なら、さもありなん。
 正解を疑わぬ磯野カツオ君と等号で結ばれた先には、愛犬の「チロ」が居て、そのチロがまた先ほどから、「ワン、ワン、ワン」と鳴いて騒いでうるさいこと限りなし。
 カツオ君も馬鹿だがチロも馬鹿。
 故に、カツオ君とチロとは等号で結ばれている。
     〔答〕 正解は「ワン」ではなくて「ツー」である チロも間違いカツオも間違い  鳥羽省三


(祢莉)
    君と見た終業式のあとの空なんでもできる気がしてたよね

 二、三句目が「卒業式のあとの空」ではなく、「終業式のあとの空」でなければならないのは、どんな理由が在ってのことであろうか?
 「なんでもできる気がしてたよね」という、自由な気持ちになるのは、「終業式のあとの空」を見た時よりも、「卒業式のあとの空」を見た時の方だと、評者は思うのだが。
 本作の作者<祢莉>さんは密かに、卒業式の後の混乱、つまりは、不毛な浪人暮らしとか泥沼の失業状態を予測して居られたのかも知れない。
     〔答〕 このままに吸われて行けばと思ったね卒業式の後で見た空  鳥羽省三


(今泉洋子)
    千年紀など騒がれて去年よりも紫式部は艶めきて見ゆ

 「紫式部千年紀」などという朦朧とした言葉を創出して、出版社を先頭にしたマスコミが大騒動を現出しようと企てたのは昨年のこと。
 <お題054:式>の始末に困った挙句、本作の作者は、結社誌に載せ損なった旧作を持ち出して来て、緊急事態を乗り切ろうとしたのではあるまいか?
 「去年よりも紫式部は艶めきて見ゆ」はあくまでも主観。
 還暦を過ぎた女流歌人が、「私の肌が艶っぽいのは、鈴木その子の<美白化粧品>をつけているからなのよ」などと言っている現場に行き合わせたことがあるが、これまた<主観>と、私は思ったことであった。
     〔答〕 艶めいて見ゆるわけでもあらなくに美肌化粧を施す歌集  鳥羽省三
 たまたま目の前に在った、ある歌集のカバーが、美肌化粧を施したような色彩であったので、これを以って、御作への返歌とさせていただきたい。


(Ni-Cd)
    くさいねと笑ってそれから黙り込む紫式部の実をつぶしては

 叩き売って出て来た私の旧居の庭には、毎秋、紫色をした粒粒の実を枝もたわわに着ける潅木が植えられていた。
 それを紫式部だと教えて下さったのは、その実の盛りに我が家を訪れた『運河』所属の歌人であった。
 ところが、晩秋が過ぎ真冬になっても、この実に寄り付く鳥はただの一羽としていないのだ。
 私は、この度、本作に接して初めてその理由を知ることができた。
 即ち、紫式部の実は、小鳥も近寄らないほど「くさい」のだ。
 「くさいものには蓋をしろ」ということで、人間はおろか一羽の小鳥すらあの実には近づかなかったのだ。
 「くさいねと笑ってそれから黙り込む」という上の句が絶妙。
 本作の作者<Ni-Cd>氏は、人生の機微をご存じである。
     〔答〕 甘いねと言ってそれきりフォーク置き食べずに帰った手作りスイーツ  鳥羽省三
 

(kei)
    執着の葛(かずら)絡まる幾度も式子内親王の憂鬱

 「玉の緒よたえなばたえね長らへば忍ぶることのよわりもぞする」(『小倉百人一首』より)を初めとする式子内親王の恋歌を見ると、「執着の葛絡まる幾度も」という、本作の作者<kei>氏の認識の正しさがよく理解されます。
 いや、「執着の葛絡まる幾度も」というのは、単なる認識ではなく、卓越した写生でもある。
 謡曲『定家』に拠ると、式子内親王と藤原定家との間は、和歌道の師弟関係で結ばれていただけではなく、そこには、恋愛関係も存在したかのように描かれている。
 本作の下の句「式子内親王の憂鬱」の「憂鬱」とは、それ故の憂鬱を指すのであろうか?
     〔答〕 玉の緒よたえなばたえね長らへば貯め居る金の少なくぞなる  鳥羽省三 


(HY)
    泣き濡れて和泉式部の詠うごとこの身蛍になれと祈った

 本作は、和泉式部の代表作、「もの思へば沢の螢もわが身よりあくがれいづる玉かとぞ見る」(『和泉式部集』)を、<HY>氏流にご解釈なさり、それに基づいての創作であろうか。
 もしそうならば、その解釈は、あまりにもご都合主義に過ぎ、本作の拠って立つ根拠も希薄となるのではないだろうか?
 本作の一句目「泣き濡れて」は、「和泉式部」に掛るのではなく、「祈った」に掛るのであろう。
 それならば、「泣き濡れて」「この身」よ「蛍になれと祈った」のは、和泉式部と本作中の<私>ということになる。
 ところが、和泉式部が、「もの思へば沢の螢もわが身よりあくがれいづる玉かとぞ見る」と歌う時、彼女は「泣き濡れて」も居ないし、「蛍になれと祈った」のでもない。
 仮に、和泉式部に私が指摘した歌とは別の蛍の歌が在って、その中で、彼女は「泣き濡れて」いて、「この身」よ「蛍になれと祈った」としたら、どうなろうか?
 本歌取りの歌であれ、そこまでは行かずとも漠然と何かの歌に依拠して創った歌であれ、何かの歌、どなたかの歌に、依拠して歌を創る場合は、典拠となる歌は、多くの人に知られた歌でなければならない。
 少なくとも「題詠2009」に参加しているくらいの歌人なら、直ぐにそれと解るような歌を典拠としなければならない。
 ところで、「泣き濡れて和泉式部」「泣き濡れて京都」「泣き濡れて熊野古道」「泣き濡れて中ノ島」「「泣き濡れてハーモニー」「泣き濡れてサクラ」「泣き濡れて天城越え」と、「泣き濡れて」というフレーズを頭に載せた語句は、それらしく見えるからご用心のほどを。
 因みに申し上げますと、「熊野古道」以下は、本稿を執筆しながら耳にしていた、NHK総合テレビの「のど自慢」の出演者たちが歌っていた曲の名称を、そのまま順番に取り入れたのである。
     〔答〕 泣き濡れず『安芸の宮島』歌ってた水森かおりは今日のゲストだ  鳥羽省三  
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紫式部

鳥羽省三さま

 やさしい酷評をありがとうございます。
実は安易に投稿していましたので、仰ることは図星です。
さすが、千里眼のような 鳥羽先生ですね。この紫式部は、植物
のことですが、本当に紫式部の実も艶めいた感じにみえたので、発見の歌と思いましたが「艶めく紫」とかしても主観にすぎませんか?そうですね素直に反省いたします。ご指敵ありがとうございました。
あまり代わり映えしないのですが、作りなおしてみました。
 ☆噂では地獄に落ちしあかねさす紫式部の夢をまたみる
☆考えるほどわからないだうしやう短歌大明神鳥羽省三様
まだまだ修行がたりないので、寸寸斬り大歓迎です。素敵な返歌もありがとうございました。

いつもありがとうございます

卒業式、ではなく終業式、である理由…
鋭いですね、なかなか的を得てらっしゃいますよ。
浪人や就職難…とまでは考えていませんでしたが
やっぱり卒業式のあとにあるのは
別れであったり新たな旅立ちですよね。
不安や涙がつきものです。
終業式のあとにあるのは夏休みや冬休み。
楽しいこと目白押しの時間です。
可能性が無限に広がってゆく感じ…
ゆえに「終業式」のあとなのです。

ありがとうございます。その3

こんばんは。磯野カヅオです。

まず、"正解を疑はぬ子(カツオ君)もチロも馬鹿"というのが面白かったです。そして"それゆえに等号で結ばれている"という解釈が素晴らしいと思いました。

この歌についてはあまり多くを書きたくないのですが、作歌の意図としては"等式の向こう側"という部分がちょっと大切です。なぜチロが騒いでいるのかも、大切だったり大切じゃなかったり。

沢山の歌に触れていただいて、ありがとうございます。

それでは、失礼いたします。

こんばんは

いつもありがとうございます。
この歌を詠んだ時は確か春だったんじゃないでしょうか。
なので、入社式を思いついた記憶があります。
丁寧に読んで頂いてありがとうございます。

スーツを上手く着こなそうとしていたのは誰か、私自身も悩みました。自分なのか、すれ違う若い人なのか。
結局、どちらでもいいかな、と思ったんです。
読んでくれた方の想像にまかせようと…。

題詠って難しいなぁ、と感じた歌でした。
またよろしくお願いします!
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鳥羽省三

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