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一首を切り裂く(054:首)

(みずき)
    首塚に雪の降るらし敦盛の笛ひようびようと哭きて吹雪くや

 本作での「首塚」は勿論、無冠太夫<平敦盛>の首塚。
 したがって、本作の舞台となった場所は須磨寺でありましょう。
 この須磨寺には、かつて多くの文人墨客が訪れたが、それらの代表はなんと言っても、俳聖・松尾芭蕉(1644~1694)と、その後継者の与謝蕪村(1716~1784)でありましょう。
    
    須磨寺やふかぬ笛きく木下闇    松尾芭蕉

    笛の音に波もよりくる須磨の秋   与謝蕪村

 この二句に共通するのは「笛」。
 それも、現実には聞こえるはずもない笛の音なのである。
 芭蕉や蕪村が、この地を訪れてから幾世紀かが過ぎた平成の今日、この歌枕の地をもう一人の墨客が訪れる。
 その人の名は<みずき>さん。
 彼女もまた耳を澄まして、彼の青葉の笛の音を聞こうとするのだが、折り悪しくも時は真冬。
 聞こえて来るのは、「ひようびよう」として響く「吹雪」の音だけなのである。
 その吹雪の音を彼女は、彼の無冠太夫・平敦盛が泣きながら吹く、名笛・青葉の笛の音として耳を傾けるのであった。
     
     〔答〕 聞こえ来る音は青葉か然(さ)に非ず耳に入るのは吹雪の音ばかり  鳥羽省三
 あまりにも月並みな返歌で失礼致します。


(春待)
    膝枕すると何時でも母さんは首の後ろの黒子を撫でる

 これぞまさしく<なんちゃって短歌>。
 とは言っても、私は本作の価値を低めようとしているのではない。
 近世俳諧に芭蕉と蕪村の二人ばかりでなく、小林一茶(1783~1828)も居て、その奥行きを深くしているように、<なんちゃって短歌>もまた短歌であり、<春待>氏の作品もまた、必要条件を十分に満たした、立派な短歌作品なのである。
 「首の後ろの黒子」。
 これまで、誰にも見せたことのない黒子。
 作者自身さえ直接には目にしたことのない黒子を、「膝枕すると何時でも母さんは」「撫でる」。
 本作は「黒子」を歌ったのではなく、その黒子を撫でてくれる「母さん」を歌ったのである。
     〔答〕 母さんがかつて撫でてたこの黒子今宵あなたに撫でられて居る  鳥羽省三


(nnote)
    首すじに夕日を連れて窓際のおとこのひとがきれいな市バス

 本作の観賞に当たっては、先ず、作者<nnote>氏の「市バス」の中での立ち位置を見定めなければならない。
 「首すじに夕日を連れて窓際のおとこのひと」とあるから、本作の作者は、その「窓際のおとこのひと」よりも後ろの座席、いや、作者は、その「窓際のおとこのひと」の斜め後ろ辺りに立っているのかも知れない。
 その「窓際のおとこのひと」の「首すじに」夕日が射していて、その「おとこのひと」は格別にきれいなのである。
 この「市バス」に乗り合わせたのは、作者にとっては、今日一日の締めくくりの<至福>であった。
 「首すじに夕日を連れ」た「窓際のおとこのひと」を見つめる作者の視線からは、決して<痴漢的視線>が感じられない。
     〔答〕 夕焼けを連れておとこの一人旅 市バスは今し真っ赤に染まる  鳥羽省三


(西中眞二郎)
    仰向けにマネキンの首寝かされて更けし床屋は練習時間

 孟子曰く、「天の時は地の利に如かず。地の利は人の和に如かず」と。
 NHK総合TVの大型ドラマ「天地人」が終わったのはつい先日のこと。
 あれから間もない今朝、私はこの作品に出逢った。
 何処かへお出掛けになられた帰路のことでしょうか。
 夜更けに床屋さんの前を通ったら、未だ照明を落とさないままであった。
 いつもなら、とっくに灯りを消しているはずの時刻なのに、今日に限ってどうしたことだろうと思って店の中を覗いてみた。
 すると、あろうことか散髪用の電動椅子が倒され、その上にマネキン人形が仰向けに寝かされていた。
 さあ、見てしまった。私は、この床屋の店主のとんでもない一面を見てしまった。
 今からあの電動椅子の上で、店主とマネキン嬢とのどんな絡み合いが展開されるのかと、恐いもの見たさ、見たいもの見たさにわくわくして見ている。
 すると、何のことは無い、その絡み合いはこの床屋のお弟子さんの練習時間に過ぎなかったのだ。
 多分、その時、その床屋さんの店主は剃刀を手にして、マネキン嬢の身体に身を寄せていたのでありましょう。
 そうした店主とマネキン嬢との直ぐ側には、通信教育で理髪師の免許を取得しようとしている、この店の若くて健気なお弟子さんが居たに違いない。

 その大多数が<なんちゃって短歌>とも思われる、「題詠企画」に寄せられた数万首の短歌作品の中から、優れた作品を選び出し、毎年、参加者の皆さんを励まされて居られる西中眞二朗氏であればこそ、短歌大明神は、この「天地人」の恵みのような光景を現出され、一首を成さしめられたのでありましょう。
 こうした作品を創る機会は、煩悩の塊のような私如きには、決して与えられないことと思いつつ、観賞文を記す筆を擱きます。

 私ごとながら、この度、西中眞二朗選『2009題詠100首百人一首』に、拙作「彼方此方(をちこち)の鬼遣る声に怯えつつママが目当てのスナックに行く」が、昨年に引き続いての入集の栄誉を賜りました。
 この場に於いて真に失礼とは存じ上げますが、選者の西中眞二朗氏に、篤く篤く御礼申し上げます。
     〔答〕 目出度いなああ嬉しいなこの栄誉今夜出掛けてママにも報告  鳥羽省三


(理阿弥)
    「俺は犬だ」伊勢線車窓にゲルニカの斬首されたる兵の眼をして

 理知に勝る阿弥陀様が「俺は犬だ」も無いでしょうに。
 この一首に接して、私は、あらためてピカソの名画「ゲルニカ」の写真を凝視しました。
 ああ、在りました在りました、「斬首されたる兵の眼」が確かにありました。
壁画の画面の右上辺りに描かれているのがそれですね。
 ところで、理阿弥さんをして、「俺は犬だ」と自覚せしめ、「ゲルニカの斬首されたる兵の眼をして」「伊勢線車窓」に寄らしめる原因は何なんでしょうか?
 人が人だけに、事は重大です。 
     〔答〕 「俺は鳥羽だ」と言わんばかりに今朝もまた一首切り裂き余念無き吾  鳥羽省三


(たざわよしなお)
    ふたりとも話題は尽きてラジオでは首都高4号線が渋滞

 こういうことって、よく在りますよね。
 この先、この大渋滞の中を新宿まで、このお二人は無言のまま、どうして行くんでしょうか?
 そのうち、無言のままでハンドルを握っている<よしなお>くんの態度を見て頭に来た彼女が、「ふん」と舌打ちでもしたら、たちまち喧嘩が始まりますよ。
 そして、前を行くベンツと衝突事故。
 そうなったら、何もかもお終いです。
 相手のベンツからはやくざ紛いのお兄さんが出て来て、「この始末を、いったいどう付けてくれると言うんだい。なんだったら、彼女のなにでなにしてもらいましょうか」とか何とか仰って。
 なにせ、首都高速四号新宿線は、名にし負う交通事故多発道路ですから。
 恐い、恐い、恐い。
     〔答〕 この場合、相手に先んじもの言うは年嵩立った君の役割り  鳥羽省三 


(久野はすみ)
    心にもなく選ばれし首都のよう震えてひらくカサブランカは

 「震えてひらくカサブランカ」の様を「心にもなく選ばれし首都のよう」と直喩で述べたのは大成功かと思われます。
 ところで、「心にもなく選ばれし首都」とは、いったい、何処の国の首都を指して言うのでしょうか?
 東京でもソウルでも北京でもワシントンでもロンドンでもパリーでもないし、モロッコの首都はカサブランカではなくてラバトであるし、不勉強な私には、そうした首都を思い当たりません。
 どうぞご教授下さい。
     〔答〕 他ならぬカサブランカをさて置いて心にも無く首都なるラバト  鳥羽省三
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No title

こんばんは。
鳥羽さん、執筆スピードが凄いですね!
文章量に驚かされています。

自分で解題してしまうと、ちょっと興ざめなのかもしれませんが・・・
大学生の頃、電車に乗ってまして、隣に三十代くらいの
サラリーマンが立ってたんですね。
その方がボソッと件の台詞を吐き捨てたんです。
いやあ、これは衝撃的な体験でしたね。
ドラマなどで見たら「そんなことを言うヤツぁいねぇよ」って
言われてしまいそうな、そんな破壊的な台詞です。
「オレハイヌダ」の六文字は、短歌としては座りの悪い字数ですが、
どう改変しても、そのときの衝撃が薄れてしまうのでそのまま使いました。
その方の眼差しは忘れることができません。

寒さも日に日に増しますので、どうぞご自愛くださいませ。

ラジオとその距離感。

鳥羽さま

拙歌、採りあげていただいてありがとうございました。
僕もぼつぼつ、他の走者の方々のことばをきちんと読み込んでいかなきゃと思っていたところです。
「ふたり」の関係性に特化して返歌いただけたものもすごく面白いと思いました。

あの、ラジオの渋滞情報のなんだかしごく冷静でテンプレートに則った声を、情報としてきちんと受け取っているひとはどれだけいるのだろう? と考えたりしています。

ラジオの声は、誰でもない世界のどこかに向けて発せられている。「ふたり」の関係性のふと生まれた空白にそんな声が入り込んでくるなら、それは「ふたり」の走行して、いる場所とは関係がないかなぁとか、そんな自解ではあります。


何を話すでもどこへゆくでもなくて僕らは向かふ終着点へ

こんばんは。

こんばんは。いつも取り上げてくださってありがとうございます。
あっという間に更新されているのでついて行くだけで精一杯です。

さて、もう何だか以前も申し上げましたが、ドキドキしながらこちらに確認に来ています。

日常のなんてことはないことを詠んでいるので「なんちゃって短歌」といわれますと、「そうかな・・・」と少し不安にもなりましたが、上手にすくっていただけてありがとうございます。


短歌の通り私の首の後ろに黒子がありまして、自分では出来物かと思って取り去りたいくらいなのに、母は優しく撫でてくれたんですよね。(今は夫と子供が撫でてくれます。)

それでは、失礼します。
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